子どもの成長74 2026/06/25 国際トラウマ質問票(ITQ)の妥当性が確認され、PTSD/CPTSDの関連要因を特定 この研究は2023年7月に、インターネットアンケートの調査パネルに登録している18~25歳の成人7,000人の中から、中学・高校時代の6年間継続して、組織的な運動部活動に参加していた2,332人を対象として実施された。回答が1,200人に達した時点で受付を終了。データ欠落のある回答や回答内容が不自然なものなどを除外し、651人のデータを解析対象とした。 対象者のおもな特徴は、年齢21.31±1.97歳、男性31.95%で、行っていたスポーツを団体競技/個人競技で分けると中学では団体競技が51.31%、高校では同56.68%だった。競技レベルは、市町村大会レベルが32.57%、県大会レベルが30.72%、地方大会レベルが13.83%、全国大会レベルが11.67%であり、33.18%は競技の早期専門化を経験していた。また、11.06%は親元を離れて学校生活を送っていた。 中学・高校時代の被暴力体験は、スポーツにおける対人暴力の質問票(Interpersonal Violence in Sport)の日本語版(IViS-J)を用いて、怒鳴られた、罵倒された、平手打ちされた、殴られたなどの体験を把握した。このほか、国際トラウマ質問票(ITQ)のPTSDやCPTSDのリスク評価での利用可能性の検証のため、感情制御の困難性、自己嫌悪感、対人関係の問題などのなどの程度を、先行研究で精度検証済みの評価ツールを用いて把握。それらのスコアと、ITQのスコアの相関を検討した。 統計学的な解析の結果、ITQの評価精度や妥当性が確認された。ITQで評価したPTSDやCPTSD関連症状の強さは、被心理的暴力体験、被身体的暴力体験、感情制御の困難性、自己嫌悪感、対人関係の問題などの、評価したすべての尺度と有意な正の相関が確認された(すべてp<0.001)。
子どもの成長73 2026/06/24 中学・高校での運動部活動中の暴力によるPTSD・複雑性PTSDを国際トラウマ質問票で検出可能 中学や高校の6年間、運動部活動を行っていた成人を対象に、その活動中に遭遇した被暴力行為に伴うPTSDや複雑性PTSD(CPTSD)のリスクを、国際トラウマ質問票(ITQ)を用いて検出できるかを検討した結果が「Frontiers in Psychology」に掲載された。山梨大学大学院医工農学総合教育部の豐田隼氏らの研究によるもので、ITQの有用性が確認されるとともに、PTSDやCPTSDの関連要因が明らかになった。 学校の運動部活動中に受けた暴力による、その後の人生への影響を推し量る 国内の中学や高校の授業以外で行われる運動部活動では、伝統的に規律の維持が重視され、体罰を含む処罰による統制を美徳と評価する慣習が長く存在していた。2013年に日本スポーツ協会などの関連諸団体が「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を採択し改善の努力がなされているものの、2020年に国際人権団体が日本の成長期アスリートの暴力被害の実態に関する報告書を発表するなど海外からも問題視され、さらなる対策が急がれている。また近年では、身体的な暴力のみでなく、言葉による虐待などの心理的暴力に対しても、批判の声が高まりつつある。 関連情報 「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」(日本体育協会、日本オリンピック委員会、日本障害者スポーツ協会、全国高等学校体育連盟、日本中学校体育連盟) 欧米を中心に行われてきた研究から、未成年期の被暴力体験は、心的外傷後ストレス症(post-traumatic stress disorder;PTSD)、成人後のQOL低下、摂食症、自尊心の低下、自傷行為、希死念慮などのリスクを高めることが明らかにされつつある。また、2018年に改訂された「国際疾病分類(international classification of disease)」の11版(ICD-11)では、PTSDとは別に「複雑性PTSD(complex PTSD;CPTSD)」という疾患カテゴリーが位置づけられた。CPTSDは、トラウマ体験が長期間続いた結果、PTSD症状に加えて感情調節の障害、否定的な自己概念、対人関係の困難さで構成される「自己組織化の障害(disturbance of self–organization;DSO)」も生じた病態とされている。さらに、PTSDとCPTSDの包括的評価ツールとして、「国際トラウマ質問票(International Trauma Questionnaire;ITQ)」が既に開発されており、臨床での使用も始まっている。 このように国際的には、身体的暴力に加えて心理的暴力を受けることによる長期的な影響の研究が進められているが、国内の学校の運動部活動中での被暴力体験によるPTSDやCPTSDのリスク評価に、ITQを利用可能か否かは検討されていない。今回紹介する豐田氏らの研究は、以上を背景として行われた。
子どもの成長72 2026/06/23 メンタル不調の種類別にみた関連因子 論文ではさらに、メンタル不調の種類別に関連因子を検討した結果が示されている。なお、この解析には性別は考慮されていない。 不安症の経験を報告した学生アスリートは、身長が3.2cm低く、体重が4.5kg軽く、トレーニング量が週0.4日少なかった。抑うつを報告したアスリートは、身長が2.9cm低く、体重が4.3kg軽く、競技歴が1.02年短く、トレーニング量が週0.3日少なかった。睡眠障害を報告したアスリートは、トレーニング量が週0.3日少なかった。摂食障害を報告したアスリートは、身長が5.1cm低く、体重が8.4kg軽く、BMIが1.7低かった。発達障害を報告したアスリートは、トレーニング量が週0.6日少なかった。薬物乱用を報告したアスリートは、トレーニング量が週1.5日少なかった。アルコール乱用については、有意な関連因子が特定されなかった。 桁違いに低い有病率は、助けを求めようとしないメンタル不調アスリートの多さの証左 著者らは論文中の考察において、先行研究と比較した場合に本研究で明らかになったメンタル不調の有病率は「桁違いに低い」としている。過去の研究の中には、例えばトップアスリートでの有病率は19~34%とする報告があるという。この違いの理由について「本研究では『診断を受けた経験』を質問したため」との解説がなされている。このことから、実際に本人がメンタル不調を抱えた経験が先行研究と同程度と仮定した場合、かなりの学生アスリートが医療専門家の助けを求めようとしていないとも考えられる。 論文の結論は、「学生アスリートのメンタル不調の対策として、とくにスキル系競技や女性アスリートに対して、『診断』ではなく、初期症状のモニタリングに重点を置く必要がある」と総括されている。
子どもの成長71 2026/06/22 メンタル不調との関連因子 続いて、女性、男性それぞれにおいて、メンタル不調の関連因子を検討した。その結果、女性においてはメンタル不調経験の有無でBMI、競技歴、トレーニング頻度が有意に異なり、男性においてはトレーニング頻度のみが有意に異なっていた。詳細は以下のとおり。 女性のみでの解析 女性では、BMIはメンタル不調経験あり群が21.1±2.6、経験なし群が21.6±2.3(p=0.013)、トレーニング頻度は同順に4.8±1.5回/週、5.1±1.3回/週(p=0.021)で、ともに前者が低値であり、年齢は有意差がなく、前述の全体解析と同様の傾向にあった。それに対して競技歴に関してはメンタル不調経験あり群のほうが有意に短く(7.1±5.4 vs 7.9±1.5年、p=0.046)、全体解析とは反対の結果だった。 男性のみでの解析 男性では、トレーニング頻度がメンタル不調経験あり群4.7±1.7回/週、5.2±1.3回/週で、全体解析と同様の結果だった(p<0.001)。競技歴に関しては同順に7.3±5.0年、8.1±5.0年と、女性とは異なり全体解析と同様の傾向がみられたが、群間差は非有意だった(p=0.078)。年齢やBMIには有意差がなかった。
子どもの成長70 2026/06/19 学生アスリートの2.4%が、メンタル不調の診断を受けた経験あり この調査は、2022年6月~2023年8月に、UNIVAS所属選手から無作為に抽出した学生に対して、大学やスポーツ団体を通じて回答協力を呼びかけ、1万999人(男性62.3%)から有効回答を得た。なお、調査の質問項目はスポーツ医学や精神医学の専門家の検証を経て構築された。 メンタル不調の経験者は、女性が多くBMIが低い 1万999人のうち269人(2.4%)が、過去に1回以上、メンタル不調の診断を受けたことを報告した。性別に比較すると女性において、その有病率が高かった(3.6 vs 1.7%、p<0.001)。またメンタル不調経験あり群はBMIが低く(22.3±3.5 vs 23.2±3.6、p<0.001)、競技歴が長く(8.0±4.9 vs 7.1±5.1年、p=0.003)、トレーニング頻度が低い(4.8±1.6 vs 5.2±1.3回/週、p<0.001)という点で有意差が認められた。一方、年齢は両群ともに平均19.9歳であり(p=0.650)、競技レベルにも有意差はみられなかった(p=0.554)。 報告されたメンタル不調の種類としては、不安症が102人(0.99%)で最多であり、以下、抑うつが94人(0.85%)、睡眠障害80人(0.73%)、摂食障害33人(0.30%)と続き、そのほかに発達障害21人(0.19%)、アルコール乱用4人(0.04%)、薬物乱用3人(0.03%)も報告された。 スキル系、審美系競技で有病率が高い 次に、行っているスポーツのタイプ別にメンタル不調の有病率を比較したところ、スキル系の競技での有病率が4.1%と最多であり、次いで審美系(3.5%)と持久系(3.0%)において、全体平均の2.4%より高い有病率が観察された。パワー系(1.5%)や混合スポーツ(2.3%)での有病率は、全体平均を下回っていた。